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2014年4月

大日向施設長の書評より

◆ 柏木恭典『赤ちゃんポストと緊急下の女性~未完の母子救済プロジェクト~』北大路書房2013年

本書は2006年に設置された熊本慈恵病院の「赤ちゃんポスト」について、これまでの議論や内外の詳細な文献研究及び実地調査を踏まえ、「赤ちゃんポスト」が投げかけた根源的な問いに果敢に挑戦した意欲作である。

「育児放棄助長論」などの感情的批判の無意味さは勿論のこと、社会福祉・児童福祉や社会的擁護の法体系や理論的視点の限界も考えさせられる。「赤ちゃんポスト」が「子どもの福祉を守るのか、権利を侵害するのか」の論争を一例としても、解が明快でないグレイゾーンであるがゆえに徹底した議論の必要性を随所で訴えている。

妊娠も出産も匿名にせざるを得ない「緊急下の女性」とその子を守り抜こうとする筆者の視点の温かさと強靭さが心に深く残る。翻って1970年代当初に発生した「コインロッカー・ベビー事件」当時は、母親批判一色であった。「赤ちゃんポスト」を風化させる日本社会の体質の不変さに愕然としつつも、一方で本書のような研究が世に出されたことは感慨深く、この40年余りの時の確かな歩みに喜びを覚える。

親と子の福祉は誰が、いかに守るべきか、子育て支援が社会の保障の根幹として国の重要施策の一つとして掲げられた今、本書を多くの人に読んで欲しいと願う。

施設長 大日向雅美
北九州市立男女共同参画センター・ムーブ『Cutting-Edge 50号』2014年2月 より引用