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2016年5月

今月は映画『ルーム』をご紹介します。男に拉致されて狭い納屋の「部屋」に閉じ込められて暮らす母(「ママ」)と5歳の息子の息もできないほどのサスペンフルな脱出劇ですが、私は映画紹介のパンフレット(ひろばに掲示してありますのでご覧下さい)に“決して事件ではない。母子が置かれた現実の厳しさと救いを的確に描いた作”と書きました。むしろ子育てに日々奮闘している母親の“日常の闇”を見る思いです。ただ、この映画の素晴らしさは闇を描くことで終わっていないことです。むしろ、「部屋」から脱出した後の母子をめぐる周囲の人々の善意と無意識の加害性、そこから立ち直っていく母子の強さが描かれているのです。「ママ」の本当に苦しみは「部屋」から脱出した後の周囲の人の「母とはかくあるべき」という固定観念。社会や周囲の人は母となった女性に対して、優しさを装いつつ冷酷な面も潜ませている。ただ、「ママ」の苦しみに真摯に寄り添う人々も登場します。その人々の支えを得て彼女が健気に立ち上っていく姿を見事に描いている点に、私は胸打たれました。子育てひろば「あい・ぽーと」の支援もかくありたい、と支援の意味を改めて考えさせられました。  

 

施設長 大日向雅美