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2006年11月

熊本の病院が「赤ちゃん引き取りポスト」の導入を決めて話題となっています。「赤ちゃん引き取りポスト」という名称自体、私たち日本社会には馴染みがなく、子捨てポストを連想させてショッキングに受け取られています。

この企画の趣旨は、さまざまな事情で子育てができない親とその子の命を救おうというところにあるようです。捨てられて命を落とす赤ちゃんや中絶せざるを得ない女性の哀しみを間近に見る産院関係者ならではの発想かと思いますが、類似の制度は古く中世のヨーロッパに存在し、現代では数年前にドイツのハンブルグでも設置されています。ドイツでも子捨てを助長するのではないかとの反発があったものの、既に70箇所以上で運営されているようです。その背景には「子どもは預かりもの」とする子ども観が人々の間に浸透していると考えられます。子どもは神様から一時的にお預かりしているものだと考える子ども観は、子どもは社会や地域の皆で育てようという発想につながります。

一方、日本では「子どもは授かりもの」とは言うものの、養子制度一つにしても、実子として育てる特別養子縁組を望む人が大半です。
わが子か否かを超えて、折角誕生した命を大切に見守り、育ちゆく過程をあたたかく見守ることができる地域社会をつくることができるか否か、今回の「赤ちゃん引き取りポスト」導入の是非をめぐって真に問い直すべきは、私たちの子ども観なのではないでしょうか?

施設長 大日向雅美